目次

  1. 「紙の博物館」とは
  2. なぜ王子が「紙の町」なのか?
  3. 製紙の成り立ち
  4. 日本の製紙産業
  5. まとめ

「紙の博物館」とは

「紙の博物館」は、JR王子駅に隣接する飛鳥山公園の中にある、製紙産業の歴史や紙の製造工程などを紹介する博物館です。


コンパクトな博物館ながらも、分かりやすい展示解説のほか、現物を触りながら学べるお子様向けの展示コーナーもあり、家族連れでも楽しみながら勉強できる場所です。


※新型コロナ対策で現在は休止中のものもあるためご注意ください

なぜ王子が「紙の町」なのか?

飛鳥山公園と言えば都内屈指の桜の名所のイメージがあるかもしれませんが、実は、飛鳥山公園のある王子周辺は「紙の町」として有名なんです。ご存知でしたか?
というのも、王子は明治6年(1873年)に、日本最初期の製紙会社の一つである「抄紙しょうし会社」が設立された場所なんです。


ちなみに、この「抄紙会社」を設立したのは、新一万円札でも話題の実業家、渋沢栄一です。
抄紙会社はのちに王子製紙株式会社へと名称を変えますが、戦後の昭和25年(1959年)に焼け残った王子製紙株式会社の王子工場の電気室を改装し、「紙の博物館」の前身となる「製紙記念館」が出来ました。そして、平成10年(1998年)に飛鳥山公園内にリニューアルオープンしたものが現在の「紙の博物館」となっています。
 

王子が製紙工場の場所に選ばれた理由

①     紙づくりに不可欠な良質な水を千川用水から得られる
②     紙の原料や製品の運搬に石神井川の水運を利用できる
③     紙の原料であるボロ(破布)集積地で製品の消費地でもある、東京に近い
④     地元王子からの熱心な誘致があった

引用:公益財団法人 紙の博物館.『展示解説 紙の歴史と製紙産業のあゆみ』 .2021年,2ページ
 

紙の原料と言えば、「木」のイメージがあったので、昔は使い古した布切れを使って作っていたというのは意外でした。着古した着物などの布切れであれば、人口が多い都市部に近い方が原料が集まりやすいし、すぐそばを石神井川が通る王子は理想的な立地だったということですね。

 

また、かつては王子製紙以外にも多くの製紙会社の工場がありました。現在でも、紙幣や切手の印刷を行っている国立印刷局の大きな工場が2つもあります。まさに「紙の町」ですね。
 


 

紙の製法の成り立ち

「紙」とは、布や植物の繊維をバラバラにして絡ませ、薄くシート状に乾かしたものを指しますが、現在の紙の製法はどこが起源かご存知でしょうか?実は中国なんだそうです。しかも紀元前2世紀には、既に紙が作られていたと言われているそうです。

 

「紙」が生まれる前は、世界では色々な素材のものに文字を書いていました。

 

  • 日本:木や竹(木簡(もっかん)、竹簡(ちっかん))
  • ヨーロッパ:動物の皮(羊皮紙)
  • 古代エジプト:パピルスの茎を薄く切ったもの  など

 

YDM Co.,Ltd.

 

中国で生まれた紙の製法は、朝鮮を経由して7世紀初頭に日本に伝わります。ヨーロッパへは、中東からアフリカを経由しながら、更にずっと先の12世紀ころに伝わったそうです。このように長い年月をかけて広まった紙の製法は、それぞれの地域で独自に発展していきました。

 

15世紀にヨーロッパで印刷技術が実用化されると、紙の需要が急増し、これまでとは違う安く大量に製造できる素材や方法が必要になってきました。ボロ布を大量に集める、というのは大変だったんですね。


1719年にフランスのレオミュールが木材が紙の原料になると発見し(実用化されるのは1840年代にドイツで)、1798年にフランスで初めての抄紙機(=紙を抄すくための機械)が発明されるなど、近代製紙産業のベースができあがりました。

 

紙の製法が伝わるのは遅かったヨーロッパが、近代製紙産業のトップランナーになったというのは興味深いですね。
 

日本の製紙産業

日本では、明治になると地券証の発行のために、大量に紙が必要になりました。

また、紙幣、新聞紙などでも紙の需要が高まったため、外国人技師やヨーロッパで開発された製紙機械の輸入により、官民一体で洋紙の生産が盛んになっていきます。

 

第二次世界大戦の際には、工場や原料となる森林が大きな被害を受けたため、終戦後は一時、製紙産業が衰えてしまいました。しかし、戦後の復興や高度経済成長期に合わせて紙の需要が再び高まったことで、現在では日本全国に多くの製紙工場があります。

 

 

現在、日本の紙の生産量は中国、アメリカに次ぐ世界第3位となっていて、国民一人当たりの消費量も世界トップクラスです。


製造されている紙もたくさんの種類があります。新聞やコピー用紙のような情報を伝えるための紙や段ボールや包装紙といった梱包のための紙、絶縁体として使われるような特殊な機能の紙など、身近なものだけでなく意外なところでも使われています。


日本は質、量ともに世界屈指の製紙大国なんですね。

 

さらに、SDGsの観点からも様々な取り組みを行っています。原材料となる木材資源の生産や、紙の製造の過程で生まれるエネルギー資源の活用、さらには古紙のリサイクルまで、環境に配慮しながら持続可能な取り組みを行っています。


個人でも取り組める活動としては、リサイクルがありますが、使い終わった紙は4~5回はリサイクルできると言われているそうです。日本の古紙利用率は世界でもトップクラスですが、より高めていくためにも一人ひとりがしっかり分別を行い、リサイクルを進めることが大切ですね。
 

まとめ

製紙産業の発展や、現在の取り組みなど知らないことばかりだったので、とても勉強になりました。情報を伝えたり記録を残したりする手段として、昔から紙は重要な役割を担っていて、扱う情報量に応じて発展していったんですね。ネットですぐに情報が手に入るようになった現代であっても、その重要性は変わっていません。

 

紙ならではの特性や取り巻く環境を知ることで、DMをただ届けるだけでなく、受け取った方に価値ある情報と感じていただけるよう、YDMで何が出来るのかを改めて考えるきっかけになりました。紙の製造工程をはじめ、今回触れられなかった内容がまだまだたくさんあるので、別の機会に紹介していこうと思っています。

 

それではまた次回。


参考書籍:公益財団法人 紙の博物館.『展示解説 紙の歴史と製紙産業のあゆみ』 .2021年.